日本で売るための3つの関門 · 1 / 3 誰が決めるか
担当者は前向きだったのに、社内で止まる。原因は提案の中身ではなく、稟議書に書ける材料が渡っていないことにあります。
「担当者はとても興味を持ってくれた。それきり連絡が来ない」——日本市場で商談を進める海外企業から、最もよく聞く話です。
多くの場合、担当者は嘘をついていません。本当に良いと思っている。ただ、その先に稟議という関門があり、そこで止まっています。
稟議書は、担当者が起案し、課長・部長・役員と順に判子を押していく承認文書です。海外の意思決定と決定的に違うのは、起案した担当者の名前が最後まで残るという点です。
プロジェクトが失敗したとき、「なぜこれを通したのか」と問われるのは決裁者ではなく起案者です。だから担当者は、自分が説明しきれない案件を起案しません。興味があっても、です。
担当者が求めているのは、良い提案ではありません。自分が守られる材料です。
形式は会社ごとに違いますが、埋めなければならない欄はおおむね共通しています。海外企業の提案書には、このうち2つ以上が欠けていることが多くあります。
製品の優位性ではなく、自社の既存の課題と結びついている必要があります。「革新的な技術です」は目的欄に書けません。「現在の◯◯の作業に月◯時間かかっており、それを削減する」なら書けます。
「ご相談ください」では起案できません。総額、内訳、支払い時期。概算でも構わないので数字が必要です。海外企業のサイトに価格が一切書かれていないことは日本では珍しく、それだけで検討が止まる理由になります。
最も重い欄です。「他でどう使われているか」が、日本では製品スペックと同等以上の重みを持ちます。実績のない提案を通した担当者は、失敗したときに個人の判断として問われるからです。
日本国内の実績が理想ですが、同業種・同規模であれば海外事例でも機能します。企業名が出せない場合は「従業員300名規模の食品メーカー」といった匿名の形でも構いません。何もないより、はるかに良い。
誰が、どの言語で、どのくらいの時間で対応するのか。ここが空欄だと、決裁者は必ず差し戻します。日本の連絡先が一つもない海外企業は、この欄が構造的に埋まりません。
海外企業が用意するのは提案書です。買い手が必要としているのは稟議書です。この2つは目的が違います。提案書は買う理由を語り、稟議書は買っても大丈夫な理由を語ります。
実務上、最も効果があるのは担当者が社内向け資料としてそのまま流用できる形で材料を渡すことです。日本語で、上記4項目が埋まっていて、数字が入っている。それだけで、止まっていた案件が動くことがあります。
日本で決裁が通らないのは、提案が悪いからではありません。担当者が社内で戦うための武器を渡していないからです。
目的・金額・実績・サポート体制。この4つを日本語で用意するだけで、通過率は変わります。大がかりな現地法人設立より先に、やるべきことがここにあります。
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