日本市場参入
日本での
「最初の1社」問題
実績がないと売れない。売れないと実績ができない。
この輪は、どこかで人為的に断ち切るしかありません。
日本市場参入
実績がないと売れない。売れないと実績ができない。
この輪は、どこかで人為的に断ち切るしかありません。
日本の社内稟議には、多くの場合「過去の類例」を書く欄があります。導入実績、他社事例、同業での採用例。書式に欄がある以上、空欄では回りません。
新規参入企業には、当然それがありません。ここで起きるのが、次の状態です。
「これは要る。入れたい。」
「社内で最初に外国製に判を押した人」になるリスクを、誰も引き受けない。
誰も反対していないのに、誰も進めない。
そして外国のベンダーは、これを「興味がなかった」と解釈して撤退します。多くの場合、あと一歩のところで。
日本の意思決定では、責任が個人ではなく承認の連鎖に分散されます。合議の利点は、失敗しても一人が潰れないことです。欠点は、誰も単独では決められないことです。
その構造の中で、前例のない選択は「誰かが最初に責任を引き受ける」という形にしかなりません。そして、それを引き受ける動機が個人には基本的にありません。成功しても評価は組織のもの、失敗すれば個人の判断ミスになるからです。
これは日本人が慎重だからではなく、報酬の設計がそうなっているからです。同じ制度を他国に持ち込めば、同じ行動が起きます。
「欧州で200社導入」は、日本の稟議書では弱い。担当者が必要としているのは件数ではなく、「日本の同業と条件が近い1社」です。
ドイツの中堅部品メーカーで、従業員規模が近く、同じ工程を持ち、導入に何か月かかったか。その1社を具体的に書けるなら、200社より効きます。数ではなく、比較可能性です。
導入契約は稟議が要りますが、期間を区切った検証は要らないことがあります。金額が小さく、目的が「評価」であれば、部門長の裁量で通る場合がある。
ここで重要なのは、値引きではありません。相手にとってのリスクの形を変えることです。買う判断ではなく、試す判断にする。
その代わり、検証の合格条件を最初に文書で決めておくこと。決めないと、終わったあとに「よかったですね」で終わります。
自治体や公的機関との実証事業は、企業にとっての「最初の1社」の代わりになります。公的な場で使われた、という事実は、稟議書の類例欄を埋められる数少ない材料です。
ただし公的な案件は、企業向けとは別の時計で動きます。予算費目が年度開始前に立っている必要があり、参加資格の要件があることも多い。提案の時期を、相手の予算編成に合わせる必要があります。
これが、この問題の救いです。1社目が極端に重い代わりに、2社目以降は急に軽くなります。
類例欄が埋まった瞬間、同じ業界の他社にとって、それは「うちの業界で既に使われているもの」になります。日本市場が参入に3〜4年かかると言われる一方で、入った後の継続率が高いのは、この非対称性のためです。
入口は世界でいちばん狭く、
入った後の道は世界でいちばん広い。
東京で株式会社コホマダを経営し、日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。海外企業の日本参入と、日本企業の海外展開の両方に関わっているため、稟議を通す側と通される側の両方を見ています。
実務としては、ブラジルの物流企業へ業務効率化ツールを開発・納品し、日本の大手小売企業のDXに関わり、スウェーデンのエネルギー事業とアフリカの政府案件の展開支援を手掛けてきました。顧客の社名は出していません。それは意図的なものです。