日本の商習慣

日本はなぜ、あれほど遅く、
そして急に速いのか

遅いのは、慎重だからではありません。
決める前に、別のものを確かめているからです。

株式会社コホマダ 代表取締役 髙松直弥
鳥取県海外よろずビジネスサポート駐在員

日本市場に入ろうとした海外企業の多くが、同じ順序で同じ感想を持ちます。

最初は歓迎される。会ってもらえる。丁寧に話を聞いてもらえる。資料も読んでもらえる。そして何も起きない。

三か月、半年と過ぎ、担当者は相変わらず礼儀正しく、しかし前に進まない。多くの企業がここで撤退します。

確かめられているのは、製品ではない

この期間に何が起きているか。日本側は、製品の良し悪しを判断しているのではありません。それは最初の会議でだいたい分かっています。

確かめられているのは、問題が起きたときにこの相手がどう振る舞うかです。

日本の取引は、契約書に書かれていないことが多く起きる前提で組まれています。仕様が途中で変わる、納期が動く、想定外の不具合が出る。そのとき、契約書を持ち出して責任範囲を主張する相手と、まず一緒に直そうとする相手では、扱いがまったく違います。

時間をかけているのは、迷っているからではなく、
そこを見極める材料を集めているからです。

だから、小さな対応が大きく効く

海外の企業が軽視しがちで、日本側が実はよく見ているものがあります。

1

返信の速さ

内容ではなく、速さそのものが見られています。すぐ答えられないときに「確認して明日中にお返しします」と返す——これができるかどうかで評価が変わります。

沈黙は、日本では「優先度が低い」という意思表示として読まれます。忙しさの表明にはなりません。

2

担当者が変わらないこと

欧米企業では担当交代は日常ですが、日本側から見ると関係が一度ゼロに戻ります。説明し直しになるからではなく、積み上げた信頼が個人に紐づいているからです。

やむを得ず交代する場合は、引き継ぎの場を作ること。メールでの通知だけで済ませないことです。

3

悪い知らせを、先に自分から出すこと

これが最も効きます。納期が危ない、想定より高くなる、できないことがある。こちらから先に言った不都合は、信頼を減らしません。むしろ増やします。

逆に、後から発覚した不都合は、内容の大小にかかわらず取引そのものを終わらせることがあります。隠していたと解釈されるからです。

そして、ある日いきなり速くなる

この期間を越えると、景色が変わります。

紹介が始まります。担当者が社内の別部署を連れてきます。同業他社を紹介されることもあります。値段の交渉が減り、契約期間が長くなる。それまで半年かかっていたことが、二週間で決まるようになります。

日本市場の継続率が高いのは、この構造のためです。入るのに時間がかかる代わりに、入った後は簡単には切り替えられません。次の相手を見極めるのに、また同じ時間がかかるからです。

入口

世界でいちばん狭い。時間とコストがかかる。

入った後

世界でいちばん広い。競合も同じ壁に阻まれている。

撤退の判断を誤らないために

多くの海外企業が撤退するのは、まさにこの見極めの期間です。手応えが無いように見える時期と、実際に脈が無い時期が、外から見て区別できません。

区別する目安を一つ挙げるなら、相手が社内の誰かの名前を出し始めたかどうかです。「上司に相談します」「別の部署にも見せたい」——こうした言葉が出てきたら、それは社内で動かそうとしている証拠です。

逆に、何か月経っても担当者ひとりの中で話が閉じているなら、それは社内に持ち込まれていないということです。そのときは、諦めるのではなく、持ち込みやすい形に提案を作り替える段階です。

私の立ち位置について

東京で株式会社コホマダを経営し、日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。海外企業の日本参入と、日本企業の海外展開の両方に関わっているため、待たされる側と待たせる側の両方を見ています。

今が「待つ時期」か「動かす時期」か迷っている方へ

相手とのやり取りの経緯を伺えれば、見極めの期間にいるのか、提案の形を変えるべき段階なのかを整理してお返しします。

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