業務とDX

その人の頭の中にある判断を、
どこまで仕組みに移せるか

属人化は、全部を移せば解けるものではありません。
移せないものを先に見極めたほうが、早く進みます。

株式会社コホマダ 代表取締役 髙松直弥
鳥取県海外よろずビジネスサポート駐在員

シフトを組めるのが店長だけ。配車を決められるのが一人だけ。発注量を判断できるのがベテランだけ。どの業界にもあり、そしてその人が休めないという一点で、必ず問題になります。

この状態を解消しようとして、多くの会社が同じ失敗をします。その人の判断を全部ルールにしようとするのです。ヒアリングをして、条件を書き出して、分岐をつくる。途中で必ず、こういう答えが返ってきます。「それは、そのときの感じで」。

ここで止まります。そして「やはり人でなければ無理だ」という結論になり、元に戻ります。

移せるものと、移せないものは混ざっている

実際に一つひとつ聞いていくと、その人がやっていることは同じ種類ではありません。少なくとも三つが混ざっています。

単なる手作業

希望休を集める。名前を並べ替える。労働時間を足す。法定の上限を超えていないか確かめる。これは全部、機械のほうが速くて正確です。ここに時間の大半が消えています。

言葉にできる判断

この時間帯には経験者を一人入れる。この二人は同じ枠に入れない。土曜は人手を厚く。「そのときの感じ」の多くは、聞き方を変えれば言葉になります。

そして三つめが、本当に移せないものです。誰が今しんどそうか。誰に頼めば断らないか。誰に頼むと角が立つか。これは人間関係の情報で、書き出した瞬間に使えなくなる種類のものです。紙に「この人は頼みやすい」と書いて共有したら、職場が壊れます。

属人化しているのは判断そのものではなく、
判断に至るまでの手作業です。

手作業を剥がすと、判断だけが残る

ここが実務上いちばん大事なところです。三つめを移そうとせず、一つめを全部剥がします。

希望休の回収、時間の集計、法定チェック、埋まっていない枠の洗い出し。ここまでを機械がやり、「ここが空いています、条件を満たす候補はこの3人です」という状態で人に渡す。すると、その人がやることは最後の選択だけになります。三つめの判断は人が持ったまま、時間は大きく減ります。

これは属人化の解消ではありません。属人性を、価値のある部分だけに濃縮する作業です。そして現実には、こちらのほうが現場に受け入れられます。「あなたの判断を機械に置き換えます」と言われれば誰でも身構えますが、「集計と確認を全部こちらでやります」なら歓迎されます。

二つめを引き出す聞き方

「どういう基準で決めていますか」と聞くと、たいてい「経験です」と返ってきます。抽象的な問いには抽象的な答えしか返りません。過去の具体物を使います。

この作業を数回やると、「感じ」と呼ばれていたものの半分以上は条件として書けます。書けなかった残りが、本当に人に残すべき部分です。

全部を移すと、かえって脆くなる

ここには逆説があります。判断を全部ルール化できたとしても、そのルールを保守する人が新しく必要になります。店の事情は変わります。人が入れ替わり、営業時間が変わり、繁忙の形が変わる。ルールは半年で古くなり、古いルールで組まれたシフトは、現場の実態と合わなくなります。

そして誰も直せません。作った人はもういない。中身が分かる人もいない。属人化が、人からシステムに移っただけです。しかもシステムのほうは、事情を説明しても汲んでくれません。

だから、変わりやすい部分は人に残します。変わらない部分(法定のルール、時間の計算、資格の要否)だけを固めます。この線引きが、この仕事のほぼ全部です。

効果は、時間ではなく代わりが立つことで測る

「月に何時間削減できました」は分かりやすい指標ですが、この種の業務では的を外します。本当の成果は別のところに出ます。

その人が休めるようになったか。別の人が、大きな失敗なしに代わりを務められるか。新しく入った人が、三ヶ月ではなく三週間で組めるようになるか。引き継ぎの資料が、口頭の補足なしで読めるか。

ここが動いていれば、削減時間がゼロでも投資は回収できています。逆に時間が減っていても代わりが立たないなら、問題は残ったままです。

「あの人しかできない」業務がある方へ

その業務で、どこまでが集計と確認で、どこからが判断なのかを切り分けます。まず対象の業務と、その人が月に何時間使っているかをお聞かせください。

業務のDX支援について / kohomadha.keiri@gmail.com