日本市場参入
日本の工場に
DXが入らない本当の理由
現場は欲しがっている。人手不足も認めている。予算もある。
それでも入らない。理由は技術でも価格でもありません。
日本市場参入
現場は欲しがっている。人手不足も認めている。予算もある。
それでも入らない。理由は技術でも価格でもありません。
海外の産業ソフトウェア企業から、日本市場について同じ趣旨の話を何度も聞きます。「デモの反応はとても良かった。その後、連絡が途絶えた」。断られたわけではない。次の打ち合わせが設定されないまま、半年が過ぎる。
これを「日本は意思決定が遅い」で片づけると、何も改善しません。遅いのではなく、止まっている場所が特定できていないだけです。
日本の中堅・中小の製造業の多くは、より大きな企業の供給網の中にいます。この構造の下では、設備の稼働率や不良率といったデータは、単なる社内の改善材料ではありません。
上位企業がそれを読めば、価格交渉の材料になります。
だから工場長は、そのデータを社内で見たいと本気で思っている一方で、データが存在すること自体を恐れています。「見える化しましょう」という提案は、この人にとっては両義的です。この葛藤は、外国のベンダーには見えません。
外観検査のAIは、日本の工場にとって最も分かりやすい導入対象です。検査員の高齢化を、経営者が口に出して認める数少ない領域だからです。関心は本物です。
ところが、学習用のデータを求めた段階で話が止まることがあります。理由は単純で、合否の基準が、どこにも書かれていないからです。
ベテランの検査員は不良を見れば分かる。しかし「なぜ不良なのか」を定義した文書は存在しない。そして、それを海外の取引先候補に対して認めたくない。「基準はあります」と答えたまま、データが出てこない状態が続きます。
これは日本の製造業の弱点ではなく、長年ひとつの現場で人が育ってきたことの副作用です。ただし、AIを入れる段になると、致命的に効いてきます。
設備の予知保全も、日本には向いた市場です。装置は古く、異音で異常に気づけた技術者は次々に定年を迎え、後任がいない。
しかしその保全業務は、多くの場合、何十年も付き合いのある地元の保全業者に外注されています。センサーとアルゴリズムで異常を検知する仕組みを入れるということは、その業者の判断が、もう十分ではないと伝えることでもあります。
予算の話より、この会話の方がずっと難しい。だから決裁が動きません。
ここが最後にして最大の壁です。日本の社内承認の書式は、過去の類例を書く欄を持っていることが多い。導入実績、他社事例、同業での採用例。
新規参入企業には、当然それがありません。
「これは要る。入れたい。」
「社内で最初に外国製に判を押した人になる」というリスクを、誰も引き受けたがらない。
拒否ではありません。誰も反対していないのに、誰も進めないという状態です。そして外国のベンダーは、これを「興味がなかった」と解釈して撤退します。多くの場合、あと一歩のところで。
もう一点、日本特有の時計があります。会計年度が4月に始まることです。とくに公共側が関わる案件では、予算費目が年度の開始前に立っていなければ、その年は動きません。
10月に届いた提案は、却下されたのではなく18か月早いのです。この違いを知らないと、待つべき時期にちょうど諦めることになります。
「反応が悪い」ではなく、上の四つのどれで止まっているのかを見極める。対処法はそれぞれ違います。
類例が要るなら、類例を作るところから設計する。小さく、短く、公表できる形で。
提案の時期を、相手の予算編成に合わせる。これだけで一年が変わります。
私は東京で株式会社コホマダを経営し、あわせて日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。日本企業の海外展開と、海外企業の日本参入の両方を扱っているため、同じ壁を両側から見ています。
実務としては、ブラジルの物流企業へ業務効率化ツールを開発・納品し、日本の大手小売企業のDXに関わり、スウェーデンのエネルギー事業とアフリカの政府案件の展開支援を手掛けてきました。顧客の社名は出していません。それは意図的なものです。