日本 → 海外

日本酒の蔵が海外に出るとき、
最初に詰まるところ

味が評価されないから止まるのではありません。
聞かれていることに、答えが用意されていないだけです。

株式会社コホマダ 代表取締役 髙松直弥
鳥取県海外よろずビジネスサポート駐在員

海外で日本酒が売れている、という話は、蔵元の耳にも届いています。実際に問い合わせが来ることもあります。それでも、年間の生産量が数百石という規模の蔵にとって、最初の一歩は驚くほど重い。

重い理由は、たいてい味ではありません。聞かれる順番と、答えを用意しておく順番が、ずれているだけです。

インポーターが最初に見ているもの

蔵側が用意したくなるのは、銘柄の物語です。何代続いた蔵か。どの米を使っているか。仕込み水はどこから来ているか。どれも本当に価値のある情報で、最終的には必ず効きます。

ただし、それは二番目以降に効く情報です。海外のインポーターが最初の面談で知りたいのは、もっと素っ気ないことです。

1

年間、何ケース安定して出せるか

インポーターは、自分の顧客であるレストランや小売に「これは来月も再来月も入ります」と言える商品を探しています。今年だけ出せる100ケースより、毎年確実に出せる40ケースのほうが価値があります。「いくらでも出せます」という答えは、むしろ不安にさせます。

2

価格が、いつまで動かないか

出荷価格が半年ごとに動く商品は、現地で値札を付け替えることになります。少なくとも1年は据え置ける価格を出せるかどうかを、必ず確認されます。

3

その国に、すでに誰かが入れていないか

同じ蔵の酒が別のインポーター経由ですでに流通していると、話は一気に難しくなります。国内の取引先がどこへ流しているかを、蔵が把握していないことは珍しくありません。これは先に調べておく話です。

4

温度管理を、どこまで約束できるか

生酒を出すのか、火入れだけにするのか。冷蔵コンテナを使うのか。品質の責任がどこで切り替わるかを決めていないと、現地で味が変わったときに話がこじれます。

物語は、契約のあとで効きます。
契約の前に効くのは、供給の確かさです。

制度の話は、思っているより単純

手続きが怖くて動けない、という蔵は多いのですが、実際に確認すべき項目はそれほど多くありません。

輸出そのものの免許。酒類を輸出する場合、自分の蔵で製造した酒を出すのか、他社の酒も扱うのかで、必要になる免許が変わります。ここは所轄の税務署に確認するのがいちばん早く、そして無料です。輸出先国によっては、産地や品質を証明する書類が求められることもあります。ここで大事なのは、自分の条件で何が必要かを一度確定させておくことで、一般論を集めることではありません。

ラベル表示。表示の要件は輸出先の国ごとに違います。アルコール度数の書き方、内容量の単位、原材料の書き方、警告文の要否。日本国内向けのラベルをそのまま貼って出せる国は、ほとんどありません。多くの場合、現地のインポーターがバックラベルを用意します。つまり、蔵が一人で全部を抱え込む必要はありません。

ただし、ここに落とし穴があります。表示の責任者は現地のインポーターでも、そこに書く内容の出どころは蔵です。原材料、アレルゲンに関わる情報、製造所の情報を、英語で一度整理しておく。これをやっていない蔵が、毎回の取引でメールのやり取りに時間を溶かしています。

最小ロットで、話が止まる

いちばん多い行き違いが、ここです。

インポーターは、コンテナ単位での取引を前提に考えます。1本や1ケースでは、輸送費が商品価格を超えてしまうからです。一方、小規模な蔵は「まず少量から試したい」と言います。どちらも正しいのに、そのまま話すと噛み合いません。

蔵が考えていること

売れるかどうか分からない市場に、いきなり大量を出せない。在庫が返ってきたときに損失が大きすぎる。まず反応を見たい。

インポーターが考えていること

少量では輸送費が乗りすぎて売価が壊れる。倉庫と通関の手間は数量にかかわらず同じ。扱う以上は、棚に置き続けられる量が要る。

この溝を埋める方法は、いくつかあります。他の蔵と混載する。1社ではコンテナが埋まらなくても、近隣の数社で分ければ成立します。県や地域の輸出支援の枠組みで、この形が取られることがあります。

あるいは、すでにコンテナを回している輸出業者の便に相乗りする。蔵が直接インポーターと契約するのではなく、間に入る商社を使う形です。利幅は薄くなりますが、最初の実績を作る手段としては現実的です。

先に決めておく三つ

問い合わせが来てから考え始めると、返事に2週間かかります。海外の相手にとって、その2週間は「乗り気ではない」という意味に読まれます。だから、来る前に決めておきます。

この三つを英語で1枚にまとめておくと、最初の返信が当日に出せます。それだけで、検討の土俵に残る確率が変わります。

反応を測る場所を決める

出したあとに何を見るかを、出す前に決めておくこと。これも順序の話です。

最初の取引で見るべきは、売れた本数そのものより、再注文が来るまでの日数です。初回は人間関係で動きます。二回目から市場が動きます。ここを記録していない蔵は、伸ばすべき国と、引くべき国の区別がつきません。

海外への輸出を検討している蔵の方へ

いまの生産量、出せる銘柄、すでに来ている問い合わせをお伺いできれば、どこから手をつけるべきかを整理してお返しします。

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