断られる理由は価格でも品質でもありません。実際の海外営業の現場から見えたパターンを整理します。
海外の食品輸入業者と日常的にやり取りをしていると、繰り返し同じ質問を受けます。「置きたいと思ったのに、仕入れられなかったものはありますか」——こちらから聞くと、返ってくる答えはだいたい同じです。
「四代続く醤油蔵に断られた」「社員十数名の味噌屋が、丁寧に、しかしはっきり断ってきた」
多くの海外バイヤーは、この断りを「関心がない」「価格が合わない」と解釈します。しかし実際に日本語で話を聞くと、理由はほとんど別のところにあります。
つまり、輸出をやりたくないのではなく、輸出という業務を担当できる人が組織の中にいないのです。四代目の蔵元も、十数名の味噌屋も、日々の製造と国内の得意先対応だけで手一杯です。そこに未知の業務が乗ると、丁寧に断るのが最も合理的な判断になります。
輸出をやる会社とやらない会社に分かれると、次に起きるのは収斂です。輸出できる会社——たいていは、すでに輸出体制を持つ専門商社を通す会社——だけが海外に出ていき、輸出しない会社は永遠に国内に留まります。
欧州や北米の「日本食品専門店」の棚は、驚くほど似た顔ぶれになります。
本当に個性のある小さな蔵や工房の商品は、輸出という一つの手続きの手前で止まったまま、外に出ません。
重要なのは、輸出しない理由が「商流」ではなく「手続き」だという点です。手続きが理由であれば、それは解決可能な問題です。
価格表・成分表・製造工程の説明を、まず日本語で正確に整理し、そこから英訳する。蔵元自身に英語力は不要です。
「EUのアレルゲン表記が必要です」だけでは動きません。「御社の商品ラベルのここに、この一文を追加するだけです」まで具体化します。
いきなり大口の契約ではなく、サンプル輸出や小ロットから始め、「一度やってみたら、意外と大変ではなかった」という感覚を作ります。
責任を丸ごと引き受けるのではなく、最初の一歩を小さくして、蔵元自身が「これならできる」と感じられる形に組み直すこと——これが、海外バイヤーの側からは直接できない部分です。
日本の中小メーカーが輸出しないのは、商品に魅力がないからではありません。輸出という業務を担当する人が、組織の中に存在しないからです。
海外バイヤーの側からこの壁を越えるのは困難です。言語の壁だけでなく、日本の中小企業特有の意思決定の仕方——誰が責任を持つかが明確でないと動かない、という構造——を理解した上で、日本語で、具体的に、小さく提案する必要があります。
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