つくり手の海外展開
小さな工房が
海外の店に置かれるまで
バイヤーは作風を聞きに来ません。
来月も同じものが届くかどうかを聞きに来ます。
つくり手の海外展開
バイヤーは作風を聞きに来ません。
来月も同じものが届くかどうかを聞きに来ます。
地方の工房が海外に出る話は、たいてい同じ形で始まります。展示会や SNS を通じて、海外の店から連絡が来る。作り手は喜び、そして数通のやり取りのあとで、返事が途切れる。
何が悪かったのか分からないまま終わる。これが、いちばんもったいない終わり方です。ほとんどの場合、作品が評価されなかったわけではありません。バイヤーが確認したかった四つに、答えが返ってこなかっただけです。
「注文してから、店に並ぶまで何日か」。ここで作り手がよく答えるのは、製作にかかる期間です。しかしバイヤーが知りたいのは輸送と通関を含めた日数です。制作3週間、発送から到着まで2週間、通関で数日。合わせて約6週間、と答えられるかどうか。この差が、そのまま信頼の差になります。
最小で何点から受けるか。多くの工房は「1点からでも」と答えますが、これは必ずしも喜ばれません。店は複数点をまとめて仕入れて、送料を分散させたいからです。むしろ「6点以上でこの単価、20点以上でこの単価」と段を切って示すほうが、話が進みます。
四つの中で、最も軽く扱われて、最も重い質問です。売れた商品をもう一度作れるか。一点物しか作らない、という答えは、セレクトショップにとっては「棚を任せられない」という意味になります。一点物を続けるなら、それを前提にした売り方(企画展、受注会)に相手を誘導する必要があります。
陶器、ガラス、漆。壊れる素材を扱う工房には必ず聞かれます。「そのときは相談しましょう」は、答えになっていません。破損時は次回出荷に同数を無償で載せる、あるいは代金から控除する。どちらかを先に決めておけば、それだけで一段階、信用が上がります。
作品の話は、四つに答えたあとで
ようやく聞いてもらえます。
「まず英語のサイトを作らないと」。この順番で止まっている工房を、たくさん見てきました。サイトは必要ですが、最初ではありません。
理由は単純で、最初の相手は検索から来ないからです。展示会、知人の紹介、SNS の投稿。最初の何件かは、必ず人づてか、画像から来ます。そこで必要になるのは、立派なサイトではなく、相手に渡せる1枚です。
英語1枚のPDF。商品写真、寸法、素材、卸値、最小ロット、納期、破損時の扱い。これだけです。ここに載る数字が、そのまま商談になります。
多言語サイト、ブランドストーリーの映像、ECの海外対応。最初の取引が1件決まってから作るほうが、中身が正確になります。
写真については、一点だけ譲れない部分があります。作品単体の写真と、使われている場面の写真を、両方入れること。海外のバイヤーは、その器が自分の国の食卓でどう見えるかを想像できないと、仕入れの判断ができません。白背景の商品写真だけでは足りません。
ここで多くの作り手がつまずきます。日本国内の小売価格をそのまま伝えてしまい、相手が「その値段で仕入れるのか」と誤解する。
伝えるべきは卸値であり、どの条件での卸値かです。工房渡しなのか、日本国内の港までなのか、相手国の港までなのか。ここが曖昧なまま話が進むと、あとで送料の負担をめぐって関係が壊れます。最初のメールで「この価格には輸送費を含みません」と一行入れるだけで、防げます。
そして、卸値は国内の取引先と揃える必要があります。海外だけ安くすると、国内の取引先が黙っていません。むしろ海外向けは、輸送と破損のリスクの分だけ高くても、説明がつきます。
ここまでを、やる順に並べ直します。
第3段階を飛ばして第4段階に行こうとすると、書けることがないままサイトを作ることになります。実績が一つあるサイトと、無いサイトは、読み手にとって別物です。
最後にひとつ。海外の取引は、思っているより事務作業が増えます。書類、問い合わせ、時差のあるやり取り。
作り手が一人でやっている工房では、この事務時間が制作時間を食い始めた瞬間に、海外展開そのものが嫌いになります。だから最初の1件で、制作以外に何時間使ったかを記録しておく。その数字が、二件目を受けるかどうか、誰かに任せるかどうかの判断材料になります。