日本 → 海外
売り先を決めてから作る、
という輸出の順序
準備が足りないのではありません。
準備する順番が、逆になっているだけです。
日本 → 海外
準備が足りないのではありません。
準備する順番が、逆になっているだけです。
輸出をやってみたい、という相談を受けたとき、多くの会社がすでに同じ道の途中にいます。商品の説明を英語にした。パンフレットを作り直した。展示会に出る予算を確保した。そして、買い手からの連絡を待っている。
この順序は、間違っているというより、お金の出入りが逆になっています。翻訳費、資料の制作費、出展料、渡航費。すべて先に出ていきます。そして最初の一円が入ってくるのは、いちばん最後です。その間に社内では「輸出は結局どうなったのか」という問いが出始めます。
この順序の本当の問題は、費用の総額ではありません。お金を先に使ったという事実が、そのあとの判断を歪めることです。
出展料を払ってしまえば、その展示会に合う商品を無理に用意します。英語のパンフレットを作ってしまえば、その内容で通る相手を探します。本来なら「この相手には合わない」と判断すべき場面で、すでに使った費用を回収したい気持ちが働きます。結果として、合わない相手に時間を使い続けることになります。
さらに、この順序では何を作ればいいかが最後まで分かりません。数量も、規格も、価格帯も、相手が決まっていないので想像で決めます。想像で決めた仕様は、実際の買い手の条件とはだいたい合いません。合わないことが分かるのは、資料も認証も翻訳も済んだあとです。
順序を入れ替えます。まず、海外の買い手の条件を一つ、具体的に確定させます。それから、その条件に合わせて用意します。
ここで言う「確定させる」は、契約を結ぶことではありません。相手が何を必要としているかを、数字と言葉で書き出せる状態にすることです。数量、価格帯、規格、認証が要るか要らないか、いつまでに納めるか。この5つが埋まった紙が一枚あれば、それが設計図になります。
商品を英語にする → 展示会に出る → 名刺を集める → 買い手を待つ → 条件を聞かれて初めて考える。費用は全部先。回収は最後。作るものは想像で決めている。
相手を絞る → 条件を聞き出す → 条件を紙に書く → それに合わせて用意する → 出す。作るものが決まってから作る。要らない翻訳も、要らない認証もやらない。
作ってから売り先を探すのではありません。
売り先の条件を、作る前に一つ確定させます。
ひとつめ。作るものが決まります。相手が求める容量が分かれば、包装の仕様が決まります。相手の価格帯が分かれば、原価をどこまで許容できるかが決まります。想像で決めていた部分が、全部事実に置き換わります。
ふたつめ。無駄な翻訳や認証取得をしません。会社案内を全ページ英語にする必要があったのか、必要だったのは商品一枚だけだったのか。認証は本当に要る相手だったのか。これは相手が決まれば数分で分かることで、決まっていないうちは何時間考えても分かりません。認証のように費用と時間の重い投資ほど、この判断の差が効きます。
みっつめ。価格交渉の前提が先にあります。相手の条件を知らないまま価格を出すと、根拠のない数字になります。数量が分かっていれば、その数量での原価から価格を組める。納期が分かっていれば、繁忙期を避けた生産計画で価格を組める。同じ金額でも、前提を示せる価格は通り、示せない価格は値切られます。
最初のやり取りで聞ければ十分です。全部が一度で埋まらなくても、埋まっていない欄が分かっていること自体が前進です。
この5つが埋まった紙は、社内でも効きます。「輸出をやりたい」という漠然とした話が、「この数量をこの価格でこの時期に出す」という具体的な検討に変わります。稟議の通りやすさが違ってきます。
この順序には、はっきりした弱点があります。特定の1社の条件に合わせて全部を作ると、その1社に依存します。
依存は、うまくいっているあいだは問題になりません。問題になるのは、相手の担当者が変わったとき、相手の方針が変わったとき、そして次の交渉で条件を下げられたときです。他に出せる先がなければ、こちらに断る力が残りません。専用の包装で、専用の容量で、その相手のためだけに整えた商品は、その相手以外に売りにくい。
だから、条件は2社分取るのが望ましい。まったく同じ条件の2社ではなく、国や販路が違う2社が良い。2社の条件を並べると、共通している部分と、片方だけの要求が分かれます。共通部分を先に作り、片方だけの要求は後回しにする。この判断ができるだけで、作るものの汎用性が上がります。
そして2社目は、1社目が決まってからでは遅くなります。1社目の条件を聞いている段階で、並行してもう1社に当たっておく。同じ質問を送るだけなので、手間はほとんど増えません。1社目に「他にも話している先があります」と言える状態は、価格の交渉でも効きます。
この順序をお伝えすると、「条件を先に聞くのは、こちらから売り込む立場なのに不躾ではないか」と言われることがあります。
実際は逆です。海外の買い手にとって、条件を聞いてくる相手は「こちらの商売を理解しようとしている供給者」として映ります。商品の良さだけを一方的に説明して条件を聞かない相手は、輸入業者から見ると、扱ったあとに毎回すり合わせが発生しそうな相手です。
聞くことは、こちらの熱意の表明でもあります。そして何より、聞いた時点で相手は自分の条件を言葉にすることになり、検討が始まります。待っているあいだは何も始まりません。