IP・海外展開
なぜ日本のIPは
海外に出ていかないのか
作品が弱いからではありません。
誰も単独で「はい」と言えない仕組みが、出口を塞いでいます。
IP・海外展開
作品が弱いからではありません。
誰も単独で「はい」と言えない仕組みが、出口を塞いでいます。
日本の中で、二つの産業を並べます。
日本の作品が世界中で普通に流通している。配信でも書店の棚でも、国外で日本発の作品を探す必要がない
日本の作家が国外の一次市場にほとんど乗っていない。探そうと思わなければ出会わない
同じ国の、同じ「絵」を扱う産業です。片方は世界を取り、片方はほとんど存在していません。そしてこの二つの市場の間を、ほとんど何も行き来していません。
需要が無いからではありません。
渡す仕組みが無いからです。
海外の企業が日本の作品を使いたいと思ったとき、何が起きるか。実際に何度も見てきた順序で書きます。
まず、誰に連絡すればいいか分かりません。公式サイトの問い合わせフォームは視聴者向けで、ライセンスの窓口ではありません。英語のライセンス情報を出している権利元は、ごく一部です。
次に、送っても返事が来ません。これは無視されているのではなく、多くの場合、担当部署に届いていません。英語のメールが誰の担当でもない状態で止まります。
そして運よく担当者に届いても、その人は決められません。ここが本題です。
日本のアニメの多くは、一社が単独で作っていません。放送局、出版社、制作スタジオ、音楽会社、玩具メーカー、広告代理店。複数の企業が出資して製作委員会を組み、権利を分け合っています。
この形には合理性があります。一社あたりの投資額が下がり、失敗しても誰も潰れません。日本が大量の作品を作り続けられてきたのは、この仕組みのおかげでもあります。
つまりこれは欠陥ではありません。国内で作品を量産するために最適化された設計が、海外に出るときだけ裏目に出る、という話です。
ただし海外から見ると、次のことが起きます。
問い合わせを受ける会社は、たいてい幹事会社か窓口会社です。その人が前向きでも、委員会に諮らなければ何も決まりません。そして委員会は定期的にしか開かれません。
一社でも懸念を示せば止まります。止めた会社の名前は、外には出てきません。海外企業には「検討中」としか見えないまま、案件が消えます。
ここが最も誤解されています。権利元が最も恐れているのは損失ではなく、作品の評判が傷つくことです。誰が最終的に売るのか、どんな品質になるのか、問題が起きたとき誰が責任を取るのか。ここが曖昧な提案は、条件が良くても通りません。
海外の企業は、日本のIPを諦めているわけではありません。米国のライセンスエージェントが既に押さえた作品の中から選んでいます。
英国や欧州の企業と話すと、同じことを言われます。自分たちが本当に欲しい作品ではなく、手に入る作品を扱っている、と。欲しい作品には辿り着けないからです。
一方で日本側では、中堅の権利元がこう言います。海外から引き合いが無い、と。
双方が相手を探していて、
間に誰もいないだけです。
構造そのものは変えられません。変えられるのは、提案の形と持ち込み方です。
権利元が知りたいのは、代理店ではなく棚の持ち主です。どの国の、どの企業が、どういう形で消費者に届けるのか。ここが具体的であるほど、委員会での議論が短くなります。
品質、期間、地域、不具合が起きたときの対応。「後で詰めましょう」は、日本では前に進みません。詰めていない項目は、止める理由として使われます。
英語の提案書は、それだけで一段階遅れます。翻訳の問題ではなく、社内で回覧できる形になっていないからです。そのまま委員会の資料にできる状態で渡せるかどうかが、数か月の差になります。
日本の権利元が海外に出ようとするときも、鏡写しのことが起きます。海外の市場で誰が棚を持っているかが分からず、現地の商習慣に合わない条件を出し、返事が来ないことを「興味が無かった」と解釈して終わります。
どちらの側にいても、必要なのは同じものです。両方の言語と、両方の意思決定の作法を知っている人間が、間に立つこと。
東京で株式会社コホマダを経営し、日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。テレビ制作の出身で、東京の商業施設におけるキャラクターIPのコラボ企画に、映像制作の側から関わったことがあります。
現在は、日本のIPと海外の事業者をつなぐ実務に取り組んでいます。海外企業の日本参入と、日本企業の海外展開の両方に関わっているため、止まる場所がどこかを、双方の側から見ています。