海外商談
通訳を入れたのに
商談が進まない
訳は正確だったかもしれません。
それでも、決まらない商談があります。
海外商談
訳は正確だったかもしれません。
それでも、決まらない商談があります。
海外の商談に通訳を手配した。会話は成立した。相手も熱心に聞いていた。そしてその後、話が動かない。
このとき、多くの人が「通訳の質が悪かったのか」と考えます。たいていは違います。
通訳者の職業倫理は明確です。話された内容を、足さず引かず、正確に訳す。意見を言わない。話の方向を変えない。これは正しい職業規範であって、手抜きではありません。
ところが商談では、しばしばこういう場面が起きます。
「前向きに検討させていただきます」
“We will consider it positively.”
訳としては完璧です。しかし相手は「やる方向で進む」と受け取ります。日本側は、断りに近い含みで言っていることがある。
言葉は正しく訳されて、
意味だけが行方不明になります。
逆方向も同じです。海外側の “That's interesting.” は、文脈によって「面白い」でも「それは困る」でもあります。訳が正確であるほど、この差は消えます。
これは通訳者の仕事です。専門用語が多い商談では、事前に用語リストを渡しておくだけで精度が変わります。渡していないのに訳が甘いと言うのは、こちら側の準備不足です。
「検討します」が肯定なのか婉曲な拒否なのか。「予算が厳しい」が値下げ要求なのか本当に無理なのか。ここを補える人が同席しているかどうかで、商談の解像度が変わります。
これは通訳者に求めるべきではありません。職業規範に反することを頼むことになるからです。別の役割として、別の人が担うべきものです。
最も抜けるのがここです。会話が終わり、和やかに握手して解散する。そして誰も、次に何が起きるかを決めていません。
サンプルをいつまでに送るか。誰が評価するか。次に話すのはいつか。この三つを、退室する前に口頭で確認して復唱する。それだけで、その後の歩留まりが大きく変わります。
商談の前に、こちら側で決めておけることがあります。
今日の会議で何が決まれば成功か。これを一文で書いておく。書けないまま臨むと、雑談で終わります。
譲れる条件と、譲れない条件。その場で判断を求められたとき、持ち帰るしかなくなると勢いが失われます。どこまでなら即答してよいかを、社内で先に決めておく。
相手の社内で、誰が決めるのか。目の前の担当者が決裁者でないことは普通です。であれば、その人が社内で説明するための材料を渡すのが本当の目的になります。
画面越しだと、相手の間や表情が読み取りづらくなります。すると沈黙の意味が分からなくなる。考えているのか、不服なのか、通訳を待っているのか。
対策は単純で、要所で確認を挟むことです。「ここまでで、懸念はありますか」と明示的に聞く。日本流の「察する」は、画面越しの異言語ではほぼ機能しません。
東京で株式会社コホマダを経営し、日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。実務では、両方の言語で商談に同席し、契約の段階まで残ることを仕事にしています。訳すことと、決めることの間に何が落ちるかを、現場で見ています。