提携と商流
提案書を出す前に、
取り分を決める
共同案件で、最初に声をかけた人が外れていく。
これは人柄の問題ではなく、手順の問題です。
提携と商流
共同案件で、最初に声をかけた人が外れていく。
これは人柄の問題ではなく、手順の問題です。
他社と組んで案件を進めたことのある方なら、一度は見たことがある光景だと思います。
最初に相手を見つけ、課題を聞き、専門の会社を連れてきた人がいる。半年後、その案件は動いている。ただし、最初の人はもうそこにいません。
こういうとき、原因は人柄に求められがちです。あの会社は強引だった、こちらが人が良すぎた、と。しかし何度か経験すると、別のことに気づきます。同じことが、悪意のない相手との間でも起きる。つまり、これは構造です。
案件の流れを分解すると、こうなっています。
発掘 → 課題定義 → 体制づくり → 専門の実行 → 納品 → 継続。
このうち、成果物が残らないのは最初の「発掘」だけです。実行には納品物が残ります。窓口には議事録が残ります。ところが「誰が最初に繋いだか」は、時間が経つほど誰も覚えていない。三ヶ月後、関係者の頭の中に残っているのは、そのとき目の前にあった資料を作った人です。
悪意は要りません。記録が無いものは、自然に消えます。
もうひとつ、よく起きるのが口頭の合意です。打ち上げの席で「あとはそちらでどうぞ」と言われた。言った側は社交辞令のつもりで、聞いた側は合意だと受け取る。半年後に食い違いが出たとき、どちらも嘘をついていないのに、話が合いません。
だから防ぎ方は、相手を見極めることではなく、手順を変えることになります。
私が海外のパートナーと交わしている契約には、実際にこの条件が入っています。関与の度合いに応じて取り分が変わる仕組みなのですが、そこに但し書きがついています。「提案書の提出前、または提出時に、書面で合意されていること」。
裏を返すと、黙って商談に同席していただけでは、後から「実質的に関与した」と主張しても通りません。合意のタイミングまで条件になっているわけです。最初は厳しく見えましたが、使ってみると、これは守られる側の条項でもあります。
この案件で自分は何なのか。紹介だけなのか、一緒に売るのか、元請けとして全責任を持つのか、専門領域だけ請けるのか。四つのどれかを、先に一つ選びます。
率だけでなく、何年分かまで決めます。「紹介は10%で12か月、一緒に売るなら20%で36か月」のように、区分と対応させておくと揉めません。
紹介を受けた相手に、事前の書面同意なく契約や提案を出さない。これを双方向で決めます。片側だけの縛りにすると、相手が署名しません。
「書面(メールを含む)での確認をもって効力を生じる」と一行入れる。飲みの席の発言を、後から争点にしないための条項です。これは双方を守ります。
元請けと下請けの関係を変えるなら、関係者全員の事前の書面合意による。一方が単独で顧客に提案しない。ここが抜けていると、途中で並び順が変わります。
これはよく言われます。信頼している相手に契約の話を持ち出すのは、疑っているように見えるのではないか、と。
実際には逆でした。条件が文字になっていない関係ほど、後から疑うことになります。取り分が見えていないと、相手が何を得ているか分からないまま進むからです。条件が全部見えている相手との仕事は、進めていて疲れません。これは私自身の実感として、はっきり分かれます。
伝え方にも少し工夫があって、「あなたを信用していないから」ではなく「後で私が忘れるから」と言うと、まず断られません。実際、忘れるのはお互い様です。
手続きとしては、驚くほど小さいことです。案件が動き出したら、提案書より先にメールを一通。自分の関与の内容を四行ほど書き、「この案件はこの区分で進めます。相違なければ返信をください」と添える。返ってきた「了解しました」を保存しておく。
それだけで、取り分が二倍、期間が三倍変わることがあります。やっている仕事は、どちらも同じです。違うのは、提案書の前に一通送ったかどうかだけです。