海外展開
円安は
追い風ではない
為替で得た需要は、為替で消えます。
安いうちに売ることではなく、安いうちに何を作っておくかが問題です。
海外展開
為替で得た需要は、為替で消えます。
安いうちに売ることではなく、安いうちに何を作っておくかが問題です。
円安で、日本の製品は海外から見て安くなりました。輸出は伸び、インバウンドは記録を更新し、「今こそ海外展開のチャンス」と言われています。
半分は本当です。ただし、その半分を取り違えると、数年後に何も残りません。
円安で売れているとき、海外の買い手が評価しているのは価格です。品質が理由で選ばれているのか、価格が理由で選ばれているのかは、売れている最中には区別がつきません。
区別がつくのは、為替が戻ったときです。
価格が上がっても、買い手は残る。値上げの説明ができる。
より安い国に切り替えられる。連絡が来なくなるだけで、理由は告げられない。
価格で勝った市場は、
価格で失います。
近年、各国の通商政策が動きやすくなりました。関税、原産地規則、環境規制、サプライチェーンの開示義務。昨日まで問題なかった取引が、政策の一行で変わることがあります。
ここで効いてくるのが、取引の性質です。
価格だけで結ばれた取引は、コストが一段上がった瞬間に見直されます。一方で、相手の事業に組み込まれている取引——相手の製品の一部になっている、相手の顧客が指名している、切り替えに検証コストがかかる——は、多少のコスト増では動きません。
つまり為替も関税も、同じ問いを突きつけています。あなたは取り替えられる供給元なのか、取り替えにくい相手なのか。
「なぜ弊社を選んでいただけたのですか」を、実際に聞くこと。返ってくる答えが「安いから」だけなら、それが現在地です。
品質や納期や対応を挙げてもらえたなら、それを具体的に書き留めて、次の商談で使う。買い手自身の言葉は、自社の営業資料より強い。
円安で出た利益は、一時的なものです。それを何に使うか。
現地での認証、現地語の技術資料、現地の在庫拠点、現地パートナーとの共同開発。いずれも「為替が戻っても消えないもの」です。利益をそのまま利益として置いておくと、為替と一緒に消えます。
単品を売るのではなく、相手の製品の構成部品になる。相手の売り場の定番になる。相手の社内の業務に組み込まれる。
切り替えるのに手間がかかる状態を作ることが、価格競争から抜ける唯一の道です。これは値引きでは絶対に作れません。
海外企業が日本に入ってくる側も、同じ構造にあります。円安の日本は仕入れ先として魅力的に見えますが、それだけで入ってきた企業は、為替が戻れば撤退します。
そして日本側のパートナーは、それを知っています。だから、価格の話から入る海外企業は、日本で信用されにくい。長く付き合う相手だと見なされないからです。
日本市場に入りたい海外企業が最初に伝えるべきは、価格の優位ではなく、なぜ日本に長くいるつもりなのかです。
東京で株式会社コホマダを経営し、日本の県の海外ビジネス支援駐在員という公職を務めています。日本企業の海外展開と、海外企業の日本参入の両方に関わっているため、価格で始まった取引がどう終わるかを、両側から見ています。
実務としては、ブラジルの物流企業へ業務効率化ツールを開発・納品し、日本の大手小売企業のDXに関わり、スウェーデンのエネルギー事業とアフリカの政府案件の展開支援を手掛けてきました。顧客の社名は出していません。それは意図的なものです。